なぜ歯科医院では労務トラブルが起こりやすいのか
歯科医院は、歯科医師・歯科衛生士・歯科助手・受付など、多様な職種が同じ空間で働く職場です。
診療が立て込みやすく、患者対応に追われる時間も長いため、つい「日々の診療が最優先」となり、労務管理が後回しになりがちです。
しかし、ルール整備を怠ると――
- 勤怠管理があいまい
- 担当業務が人によって偏る
- 説明不足や誤解から不満を抱えるスタッフが増える
など、トラブルの火種が日常的に生まれます。
医院の規模に関わらず、労務管理は経営そのものを支える基盤であることを忘れてはいけません。
歯科医院で実際に起きやすい労務トラブル
1. 「診療後の作業」が労働時間として扱われない
器具の洗浄・滅菌、ユニットの片付け、明日の準備など、歯科医院では診療時間以外にも多くの作業があります。
しかし、これらを「サービス残業」のように扱い、暗黙の了解で未払いにしてしまう医院も少なくありません。
実働と記録が一致しないと、後々のトラブルに直結します。
2. タイムカードの扱いが曖昧で「実態とずれる」
- 早く来て準備しているのに出勤時刻が反映されない
- 終業ボタンを押したあとも後片付けを続ける
このような“前後の隠れ労働”は、歯科業界では起こりやすいポイントです。
細かい時間の積み重ねが賃金未払いにつながり、スタッフとの信頼関係を損ねます。
3. 研修・ミーティングを義務化しながら「労働時間でない」と扱う
歯科衛生士のスケーリング練習や、助手の器具準備研修、症例共有ミーティングなど、専門職の教育は欠かせません。
ただし、参加が必須であるにもかかわらず「無給扱い」にしてしまうと法的に問題が生じます。
4. 人間関係の悪化(小規模ゆえの「派閥」「人間関係のギスギス」)
歯科医院は女性が多い、かつ少人数の職場が多く、人間関係の影響を強く受けます。
- 特定の2〜3人の不仲が医院全体に影響
- 先輩からの言動がきつい
- 意見を言いづらい空気がある
こうした環境は、離職や職場の分裂につながることがあります。
5. 給与・待遇に関する誤解や不公平感
- 有給が取りにくい
- 手当の基準が不透明
- 減給が独自ルールで行われる
これらは“感情的な不満”だけでなく、法的な問題として指摘される可能性があります。
6. スタッフが薬剤・材料を持ち出したのに「解雇ができない」
実際に歯科医院で起こりうる深刻な事例です。
たとえば、
- 鎮痛薬を私的に持ち帰る
- 歯科材料(グローブ、口腔ケア用品、医薬品)を黙って持ち出す
これは本来、懲戒処分や解雇の対象になり得る重大問題ですが、
就業規則に「持ち出し禁止」「懲戒基準」等が明記されていない場合、法的には懲戒処分・解雇が原則として出来なくなります。
▼ よくあるケース
- 就業規則がない
- あっても持ち出し・窃盗に対する条項がない
- 懲戒の種類・手続きが不明確
- 注意・指導の記録が残っていない
結果として、
“薬を盗んだのに解雇できない”
という、院長側にとって非常にストレスの大きい状況が発生します。
医療機器・薬剤を扱う歯科医院だからこそ、
「持ち出し禁止」「院内物品の管理」「守秘義務」「懲戒事由」は必須の項目です。
トラブルを防ぐための労務管理のポイント
◆ 1. 就業規則の整備は「絶対条件」
歯科医院の実態に合わせて、具体的なルールを明文化することが重要です。
最低限、以下を盛り込みましょう。
- 勤務時間・休憩・遅刻・早退・欠勤の扱い
- 研修・ミーティングの参加条件
- 医薬品・器材の管理と持ち出し禁止の規定
- 懲戒の種類(けん責/減給/出勤停止/懲戒解雇など)
- 解雇が可能となる具体的な行為
- ハラスメントや守秘義務違反の扱い
「具体例を明記する」ことで、いざというときに法的にも有効なルールとなります。
◆ 2. 勤怠管理は「正確に記録」する
- タイムカード
- 勤怠システム
など、何を使っても構いませんが、
「記録された時間 = 実際に働いた時間」
となるよう徹底する必要があります。
◆ 3. 法令の理解と、必要に応じた専門家の活用
労働基準法・社会保険・有給休暇・残業・解雇などは、院長一人で抱え込むと必ず限界が来ます。
歯科の労務に強い社労士に相談しながら、医院に合った仕組みづくりを進めるのが最も効率的です。
◆ 4. コミュニケーションの場を意図的に設ける
- 月 1 回の面談
- チームミーティング
- 匿名アンケート
- 役割分担の見直し
スタッフが安心して意見を伝えられる環境づくりは、離職防止に直結します。
まとめ:歯科医院の“安定経営”は日々の労務管理から
労務トラブルは、ある日突然表面化します。
- 些細な不満の積み重ね
- 曖昧なルール
- 説明不足
- 記録の不備
といった小さな要因が積み重なって起こるものです。
特に歯科医院では、医薬品や器材を扱うという特性上、 物品管理のルール と 懲戒規定の整備 などは極めて重要です。
スタッフが安心して働ける環境をつくることが結果的に「患者満足」や「医院の成長」につながっていきます。
適切な就業規則や、良好な人間関係が土台にあるクリニックでは、安定経営の実現が見込めます。労務管理がなかなか上手くいかず、トラブルが起きている場合は、ぜひ実践してみてください。
この記事の監修者
特定社会保険労務士 下村圭祐

東京都港区に事務所を構え、医療・歯科業界を中心に労務顧問、給与計算、就業規則、助成金申請など幅広く支援。
労働基準監督署での勤務経験を持ち、行政の視点と現場の実情をバランスよく取り入れた実践的な労務サポートを行っている。
人事労務歴は10年を超え、「従業員とのトラブルを未然に防ぎ、長期雇用につなげる労務環境づくりの専門家」として信頼を集める。
採用・教育・評価・定着を見据えたトータルな労務設計を得意とし、
「人が辞めない職場」を“仕組み”として構築することに注力している。
歯科医院の院長に寄り添い、現場の悩みを実務レベルで解決しながら、
安定した経営基盤とスタッフの安心を両立させるサポートを提供している。
問い合わせ・詳細はこちら→ 社会保険労務士法人シモムラパートナーズ
