1.歯科医院のための出張旅費規程

歯科医院のための出張旅費規程

~税務と労務の両面から見た、院長先生が知っておくべき実務ポイント~


目次

1.なぜ歯科医院にも出張旅費規程が有効なのか

出張旅費規程は節税対策の一つとして有名ですが、歯科医院・医療法人でも活用可能な制度です。
特に、院長先生は学会・他院見学などで出張するケースが多く、これらの出張に関わる交通費・宿泊費・日当を出張旅費規程に従い運用する事で、給与ではなく、非課税の出張旅費として経費計上が可能です。しかし本制度を悪用し過度な節税対策や誤った運用方法をした場合は、税務調査で否認されるリスクもあります

出張旅費規程を適切に整備しておくことで、

  • 節税効果を得ながら、
  • 経理・労務の事務を簡素化し、
  • 税務調査時にも堂々と説明できる仕組みを構築できます。

2.出張旅費規程のメリット① 節税効果

出張旅費規程を作成し、適切に運用すれば大きな節税効果をもたらすことが出来ます。しかし、常識的な範囲を逸脱した規定にしてしまうと税務調査で否認され、給与とみなされ課税等の対象となり過去に遡って計算し、納税しなければならなくなります。

▸ 節税効果の具体例

たとえば、

  • 片道100㎞以上の出張を対象
  • 宿泊費:1泊10,000円、日当:3,000円、交通費:実費

と規程で定めていれば、実際は8,000円のホテルに宿泊した場合でも10,000円を精算し、13,000∔交通費実費を経費処理が可能です。
※なお、金額の妥当性については、必ず顧問税理士の先生に最終確認をお願いしましょう。


3.出張旅費規程のメリット② 事務の簡素化 

出張旅費規程を作成すると、精算手続きが格段に楽になります。

たとえば、「院長の宿泊費は1泊10,000円」と定めておけば、実際の宿泊費が8,000円でも10,000円を支給すればOK。
領収書の確認や金額調整の手間が省けます。

ただし、「どこに」「誰と」「何を目的に」出張したのかをメモや報告書、学会の参加証などで残しておくことは必須です。空出張は当然の事、どんな出張かの記録がない場合、税務調査で否認されることがあります。


4.労務面の留意点① 従業員にも適用が必要

出張旅費規程は、院長だけでなく従業員全員を対象とする必要があります。
もし、「院長のみが対象」となっていると、税務調査で否認されるリスクがあります。

スタッフがセミナーや勉強会に参加する場合にも同様に適用することで、

  • 公平な支給ルールが整い、
  • トラブルや不満の防止にもつながります。

5.労務面の留意点② 適切な周知・労働基準監督署への届出

出張旅費規程は就業規則の一部となります。新たに規程を設ける・変更する際には、以下の手続きを行わないと、規程自体が無効となり得ます。

  • 従業員への周知
  • 意見書の記入
  • 労働基準監督署への届出(常時雇用する従業員数が10名以上の場合)

 を行うことで、法的効力が発生します。

参考:厚生労働省 就業規則の周知と効力


6.労務面の留意点② 規程通りに運用する

規程は作って終わりではなく、規定どおりに運用することが最も大切です。

たとえば、規程では「宿泊費15,000円まで」と定めているのに、50,000円の高級ホテルに宿泊して全額経費にしてしまう
→ このようなケースは税務上否認される可能性があります。


7.歯科医院での実際の出張事例

ここで、実際の歯科医院で想定される出張ケースを挙げてみましょう。

出張目的内容支給できる費用例
院長先生が東京の学会に出席学会発表・症例研究交通費、宿泊費、日当
勤務医が日帰りでセミナー参加インプラント研修・実技講習交通費、日当(宿泊費なし)
衛生士が日帰りで地方講習会に参加学会参加・勉強会同行交通費、日当(宿泊費なし)
院長が新規機器導入の商談でメーカー訪問設備導入の出張交通費、宿泊費、日当

これらはいずれも業務に関連する出張であり、出張旅費規程を適用すれば非課税の対象となります。
ただし、家族旅行や私的な移動を兼ねる場合は注意が必要です。
「業務目的が明確」であることが前提となります。

また、昨今の物価上昇や交通費改定に合わせ、 3年に一度は見直しを推奨します。「金額設定が古いまま放置されている」医院も多いため注意しましょう。


7.まとめ ― 出張旅費規程は医院経営の“守りのルール”

歯科医院では、日々の診療だけでなく、学会への参加も業務の一部だと思います。その際に出張旅費規程が正しく制度設計されていれば、

  • 節税効果を得ながら、
  • 経理・労務の事務を簡素化し、
  • 税務調査時にも堂々と説明できる仕組みを構築できます。

最後にもう一度。出張旅費規程は「作って終わり」ではなく、「運用して守る」ためのルールです。


🦷執筆者コメント

特定社会保険労務士/社会保険労務士法人シモムラパートナーズ代表

下村 圭祐(しもむら けいすけ)

東京都港区に事務所を構え、医療・歯科業界を中心に労務顧問、給与計算、就業規則、助成金申請など幅広く支援。

労働基準監督署での勤務経験を持ち、行政の視点と現場の実情をバランスよく取り入れた実践的な労務サポートを行っている。

人事労務歴は10年を超え、「従業員とのトラブルを未然に防ぎ、長期雇用につなげる労務環境づくりの専門家」として信頼を集める。

採用・教育・評価・定着を見据えたトータルな労務設計を得意とし、

「人が辞めない職場」を“仕組み”として構築することに注力している。

歯科医院の院長に寄り添い、現場の悩みを実務レベルで解決しながら、

安定した経営基盤とスタッフの安心を両立させるサポートを提供している。

🔗 公式サイト: 社会保険労務士法人シモムラパートナーズ

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